木(肝)の健康と体内時計

東洋医学でいう肝の機能の一つに「疏泄」があります。
疏泄とは、経絡(気と血の通り道)を流れる気や血の流れをスムーズに巡らせることです。
肝は、自律神経と特に関係が深いといわれます。
そのため肝の機能が低下すると、自律神経が失調しイライラや抑うつ、情緒不安定などの精神症状が現れやすくなったり、発汗異常や下痢、便秘、その他不定愁訴と呼ばれる様々な身体症状も引き起こします。
自律神経は血管にもつながっており、乱れて交感神経が興奮すると血管が収縮し、血行不良による筋肉痛、皮膚の乾燥なども引き起こします。
狭義の「肝の疏泄」とは、自律神経の働きが正常であることだといえます。
広い意味では、ホルモン系や免疫系なども含めた生体の恒常性を維持機能と見なすことができます。
そしてこの生体恒常性の維持に深く関与しているのが体内時計です。
よって体内時計を正常にコントロールすることで、肝の不調を防ぐことができます。

体内時計とは

地球上のほとんどの生物は、地球の自転による1日の変化に合わせて、体内環境を変化させる機能を持っています。
この機能を概日リズム(サーカディアンリズム)といいます。一般的には体内時計と呼ばれています。
体内時計は、自律神経のバランスやホルモンの分泌、免疫システムなどを調整しています。
例えば、夕方から夜にかけて体温や血圧は低下し、朝から昼にかけて上昇するという変動も体内時計によるものです。
体内時計は中枢と末梢に存在しており、中枢の体内時計は視床下部の視交叉上核にあり、光の刺激を受けて全身の体内リズムを調整します。
人間の体内時計の周期は、地球の自転周期である24時間よりも1時間ほど長い約25時間ですが、このずれを朝の太陽の光が体内時計の針を進めて地球の自転周期に合わせます。
末梢の体内時計は、中枢の体内時計の調節を受けながら、臓器毎に異なるリズムを刻みます。
また食事や運動などの影響によってリセットされます。

現代人の体内時計の乱れ

ヒトの体内時計は通常、太陽の光が届く日中に活動して、光が届かなくなる夜に眠るように働いています。
しかし現代社会では、本来就寝に向けて活動を低下させていく時間帯であるはずの夕方から深夜にかけても、スマートフォンやパソコンの液晶画面から発せられるブルーライトなどの強い光を浴びる機会が増えています。
朝日と同じような光を夜にも浴びることで、体内時計は1時間、2時間と後ろにずれていきます。また遅い時間に食事をとったりすることも、体内時計を後ろにずらす原因になります。

体内時計の乱れによる重大な病気

こうした状態が長く続くと体内時計に乱れが生じ、健康面に悪影響を及ぼし、さらには重大な病気を引き起こすこともあります。
例えば、夜型の生活をしている人は皮膚ガンや糖尿病などの疾患になりやすいことが統計データやマウス実験などから明らかになっています。
これらのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖尿病については、本来活動する日中にインスリンの効果が高まるように体内時計が働いているところ、夜型生活ではインスリンの血糖値を下げる効果が不十分となることが推測できます。
皮膚がんについては、日中は紫外線により損傷したDNAの修復能力が高くなっているため夜型生活によりこの能力が低下し皮膚がんを増加させていると推測できます。
体内時計の乱れはこれらの他に、高血圧や脂質異常症、うつ病など多くの疾患のリスクを上昇させます。

体内時計を整えるために

体内時計を整えるために最も大切なことは睡眠です。
体内時計の調節の基本は、朝の光と夜の光をどのように浴びるかです。朝太陽が昇る時間に起床し、夜はできるだけ早めに就寝すること。
その際、就寝前の1~2時間は、照明を弱めにして、テレビやスマホ、パソコンの画面などを見ないようにすると良いでしょう。

参考文献
明石 真(2013)『体内時計のふしぎ』 (光文社新書)