五行の「土」は、農作物や植物、動物など万物を生む基盤となるものです。
五臓の「脾」は、人体の栄養源となる水穀の精微を作るので土に属します。
脾の働きは、運化、昇清、統血を主ることです。
運化とは、食物から栄養分(水穀の精微)を取り込むことです。
昇清とは、取り込んだ水穀の精微から水穀の気と津液を上焦の肺に上げる機能です。
統血とは、血が血管から漏れるのを防ぐ機能です。そのため脾が不調になると出血しやすくなります。
脾が失調すると、食欲不振や吐気などの胃腸症状や、倦怠感などが出やすくなります。

運化

口から入った飲食物は、胃の水穀の受納・腐熟の働き(消化)によって泥状の化物となり、小腸へ運ばれます。
化物のうち、体に必要な部分である水穀の精微と津液は脾に運ばれます。この働きを運化といいます。
水穀の精微は気血の原料となるもので、飲食物中の栄養素と見なすことができます。
不必要な食物残渣と水分は大腸へ送られます。
現代の栄養学から見ると、飲食物に含まれる炭水化物は、唾液や膵液のアミラーゼによって、単糖類のグルコースや二糖類のマルトースに分解されます。
たんぱく質は胃液中でペプシンによってペプチド(アミノ酸が数個~数十個連なった化合物)に分解されます。
中性脂肪(トリグリセリド)は、十二指腸で胆汁により乳化され、膵液のリパーゼにより、脂肪酸とグリセロールに分解されます。
分解された栄養素は、小腸の粘膜から吸収し、門脈を経て血中に取り込まれます。
東洋医学では、消化は腑である胃、小腸、大腸、胆によって行われます。
運化とは、小腸から血中に取り込む過程(吸収)と考えると理解しやすいでしょう。

昇清

昇清とは、水穀の気と津液を肺に運ぶ機能をいいます。
肺は水穀の精気と呼吸からの清気と津液から営気を作り、気や津液を全身に送ります。
現代の栄養学から見ると、小腸から吸収された栄養分は、静脈血に入り肝門脈を通って肝臓に運ばれます。
肝臓で処理された血液は、下大静脈を通り肺に運ばれます。
昇清は吸収機能と考えると理解しやすいでしょう。

統血

統血は、血が血管から漏れるのを防ぐ機能ですから、毛細血管の強度といえます。
脾の機能が弱まり統血の機能が低下すると、脾不統血という症状が現れることがあります。
これは気の固摂作用が低下したことによって、血液を血管内に留める力が弱まったために起こるものです。
脾不統血の具体的な症状としては、皮下出血、鼻血、血尿、血便、痔による出血、不正性器出血、経血過多などが挙げられます。
毛細血管は、年齢を重ねることにより破れやすくなります。
高齢者が、どこかにぶつけるなどの衝撃が加わらなくても知らないうちに内出血するのはこのためです。
出血以外にも様々な症状を引き起こします。
毛細血管には小さな穴があり、そこから周囲の細胞に酸素や栄養分を届けます。
加齢などにより毛細血管がもろくなると、血液が必要以上に血管外に漏れ出てしまい、するとその先に血液が十分に行き届かなくなります。
この状態が続くと、その先の血管が消滅し、血流が途絶え細胞が壊死することがあります。
そうなると新たな血管が(新生血管)ができて、痛みを生じたりします。
毛細血管の強度は、食生活の影響を受けます。過剰な栄養物質が血管内皮に蓄積することが主な原因です。