五行の「木」は草木の成長を表します。上や外に向かって伸びる特徴があります。
五臓の「肝」は気を草木のように伸びやかに巡らす性質をもつので木に属します。
肝の働きは、疏泄と蔵血を主ることです。
疏泄とは、経絡(気と血の通り道)を流れる気や血の流れをスムーズに巡らせることです。
蔵血とは、血を貯蔵し、血の量を調節することです。
肝が失調すると、筋肉、目、爪、自律神経系などに症状が出やすくなります。

疏泄

東洋医学では、万物は気から構成されていると考えられています。
人間も気から作られており、また気が体内を巡ることで生命が維持されています。血も気から作られます。
一方科学の分野において、物質の最小単位として現在分かっているものは素粒子です。
素粒子は原子や分子を形成し、原子や分子はタンパク質や様々な高分子を形成し、細胞や組織、器官が作られ人体となります。
また人体を動かすのも原子や分子です。
体内ではこれらが結合したり分離したり、配置を変えるなどの運動をしています。
膨大な数の化学反応や物理変化が行われているのです。健康を維持する仕組みも例外ではありません。
神経系や内分泌系では、情報伝達物質としての多様な原子や分子が細胞間や細胞膜上を動いています。
また血液のように目に見えるものも、ミクロレベルで見ると原子や分子の運動です。
まだ素粒子や原子、分子などが発見されていない時代に、物質を構成するものを「気」と認識していたことは、決して非合理なことではありません。
そのように考えると、疏泄とは気や血の流れの調節ですから、広い意味では生体の恒常性を維持するための原子や分子の動きを調節する機能といえるのではないでしょうか。
肝は、自律神経やホルモン、筋肉、血液との関係が深いといわれます。
狭義の「肝の疏泄」とは、これらの働きが正常であることだといえます。
肝の気が滞る「肝気鬱血」では、イライラや抑うつ、情緒不安定などの症状が現れます。
これらの症状は自律神経やホルモン分泌の失調によります。
また自律神経は血管にもつながっているため、自律神経が乱れて交感神経が興奮すると血管が収縮し、血行不良による筋肉痛、皮膚の乾燥などの原因にもなります。

蔵血

血(営血)は、水穀の精微(飲食物)と精気(空気)から作られ、肝に蓄えられます。
また必要に応じて供給する血の量をコントロールします。
西洋医学的に見ると、消化管から吸収された栄養分を豊富に含んだ血液は、肝門脈を通り肝臓へ入ります。
肝臓では様々な代謝がおこなわれます。
吸収された栄養分のうち、糖類はグリコーゲンとして肝細胞に貯蔵され、必要に応じてグルコースに分解されてエネルギー源となります。
中性脂肪やコレステロール、リン脂質などの脂質は、タンパク質と結合してリポタンパク質が形成されます。
必要に応じて脂肪酸に分解され、エネルギー源として利用されます。
各種アミノ酸の生成や分解、アルブミンを中心とした多くの血漿タンパク質の合成もおこなわれます。
肝臓を出た血液は大静脈から心臓を入り、全身に運ばれます。
東洋医学でいう蔵血とは、血液が肝臓で代謝を受けてから、全身循環するために心臓に入るまでの過程とイメージすれば理解しやすいと思います。