「季節の病気」は今回から「季節の病気と漢方」にリニューアルしました。

季節の病気「ヘルパンギーナと手足口病」

夏に流行する感染症として代表的なものに、ヘルパンギーナと手足口病があります。
共にピコナウイルス科のエンテロウイルス属のウイルス原因とした感染症です。
ヘルパンギーナは、エンテロウイルス属の、主にコクサッキーウイルスA群(CA)2、3、4、5、6、10型が原因とされていますが、その他、コクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスなどによる場合もあります。
手足口病は、CA16、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などが原因となります。

①ヘルパンギーナ

【症状】2~4日の潜伏期間を経て、38~40℃の高熱が1~3日間程度続きます。
全身倦怠感、食欲不振、咽頭痛、嘔吐、四肢痛などが現れる場合もあります。
また口の中に小水疱や発赤が現れるのも特徴です。まれに無菌性髄膜炎や心筋炎などを併発することがあります。

【感染経路】主に5月頃から感染が増え始め、7月頃がピークとなります。
ウイルスの宿主はヒトだけであり、感染経路は、接触感染(糞口感染を含む)と飛沫感染です。
症状が回復した後にも2~4週間は、便からウイルスが検出されることがあります。

【治療】ウイルスを除去する薬はありませんので、対症療法になります。
発熱や頭痛には解熱鎮痛剤を用いることが多いようです。

【予防】感染者との密接な接触を避けることや、うがいや手指の消毒をすること、患者あるいは回復者に対しては、排便後の手洗いを徹底させることなどが推奨されています。

【感染症法上の取り扱い】5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関より毎週報告されています。

【学校保健法上の取り扱い】学校において予防すべき伝染病1~3種に含まれていません。
したがって「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはなっていません。

②手足口病

【症状】3~5日の潜伏期間を経て、口の中や、手足などに水疱性の発疹が現れます。
約1/3に発熱が見られますが、ほとんどが38℃以下の軽度です。
通常は3~7日の経過で消退します。
基本的に予後は良好ですが、まれに急性脳炎を併発することがあります。

【感染経路】主に飛沫感染により起りますが、便中に排泄されたウイルスによる経口感染や、水疱内容物からの感染などもあります。
症状が回復した後にも2~4週間は、便からウイルスが検出されることがあります。

【治療】ウイルスを除去する薬はありませんので、対症療法になります。
抗ヒスタミン剤の塗布を行うことはありますが、ステロイドの外用剤は基本的には使用しないとされています。

【予防】感染者との密接な接触を避けることや、うがいや手指の消毒をすること、患者あるいは回復者に対しては、排便後の手洗いを徹底させることなどが推奨されています。

【感染症法上の取り扱い】5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関より毎週報告されています。

【学校保健法上の取り扱い】ヘルパンギーナと同様に、学校で予防すべき伝染病1~3種に含まれていません。通常の流行状況において登校するかどうかについては、患者本人の症状や状態によって判断すればよいと考えられています。

 

季節の漢方「温病」

7月は、暦の上では夏の終わりになりますが、実際には梅雨明けして本格的な暑さを迎える月です。
今年は例年よりも、暑さが早く到来しました。
2022年は壬寅(みずのえとら)の年ですが、中国の古典黄帝内経五運行大論篇(こうていだいけいごうんぎょうたいろんへん)によると「寅申の年は少陽相火(しょうようしょうか)が天の気を主る。」として、陰陽五行の木・火・土・金・水のうち、火が今年の天気を支配するようです。
したがって暑さが厳しくなることが予想される年であったといえます。
東洋医学では、夏は、火邪・熱邪・暑邪という邪気が活発化すると考えられています。
これらは温病(おんびょう)の発生原因となります。
温病とは「四季それぞれの季節において、温熱の邪を感受して引き起こされる各種外感急性熱病の総称である。」とされています。
(『改訂版 中医基本用語辞典』高金亮監修 2020年東洋学術出版社)
外感熱病とは、火邪・熱邪・暑邪が体内に侵入することによって生じる熱性の疾患とされています。
普通感冒やインフルエンザ、新型コロナなども該当すると考えられます。
そのため、温病の治療はウイルスの種類に関係なく、証(症状)に適した薬を使用します。
温病という病気は中国では古代からありました。
後漢の時代に張仲景(ちょうちゅうけい)が著した「傷寒論(しょうかんろん)」には「太陽病、発熱し、口渇し、悪寒のない者は温病と為す。」と書かれています。
ただし、この時代は、寒さによる感染症(傷寒)が猛威をふるっていたため、病邪の多くは温熱邪ではなく寒邪であり、治療の中心は「温病」ではなく「傷寒」でした。
しかし、金、元の時代になると、傷寒論の時代よりも気候は温暖化し、また商業の発達による都市化や、多くの戦争によって疫病が流行しました。
そうした時代背景によって、傷寒病の治療だけでは、今の病気に対処できないという認識が広まりました。
金元医学四大家の一人である劉完素(りゅうかんそ)は、六気(風・寒・暑・湿・燥・火)は全て火に変化するとして、清熱作用を持つ寒涼剤を中心とした方剤を作りました。
さらに清の時代になると、温病の理論や治療法が発展しました。
葉天士(ようてんし)は衛気営血弁証を提唱し、温熱病の進展は、衛分証(えぶんしょう)→気分証(きぶんしょう)→営分証(えいぶんしょう)→血分証(けつぶんしょう)という順で進行すると説明しました。
中医基本用語辞典では、衛分証を「温熱の邪が肌表を侵犯し、肺衛の機能が失調して出現する病証をさす。」と説明しています。
症状としては、発熱、微悪寒、頭痛、口渇、せき、のどの痛みなどを呈します。
治療には、銀翹散(ぎんぎょうさん)、桑菊飲(そうぎくいん)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)などを用います。
気分証は「温熱の邪が臓腑に内侵した病証をさす。」とされています。
正気と邪気が争うため、陽熱が旺盛となり、発熱、悪寒せずかえって悪熱すると考えられています。
治療には、白虎湯(びゃっことう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、桔梗湯(ききょうとう)などを用います。
営分証は「温熱の邪が心営に内陥し、営陰が損傷し、心神が擾乱して出現する病証を指す。」として、心煩、不眠、意識障害、譫言(うわごと)を言うなどの症状を呈します。
治療には、清営湯(せいえいとう)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、温清飲(うんせいいん)などを用います。
血分証は「温熱の邪が血分に内陥し、血を耗傷したり動血して出現する病証を指す。」として、高熱、煩躁妄動、発狂、吐血、鼻血、血便、血尿など、営分証よりもさらに重篤になります。
治療には、犀角地黄湯(さいかくじおうとう)などを用います。
今月のテーマであるヘルパンギーナや手足口病、または普通感冒やインフルエンザ、新型コロナも、軽症であれば、衛分証から気分証にとどまっており、病状がさらに悪化し、中等症や重症になった場合は(呼吸困難などにより入院が必要な状態等)、営分証や血分証まで進行している可能性が考えられます。

 

参考文献

国立感染症研究所ホームページ『感染症情報』
厚生労働省ホームページ
高金亮監修(2020)『改訂版 中医基本用語辞典』(東洋学術出版社)
菅沼栄(2022)『入門・実践 温病学』(源草社)