季節の病気「熱中症」

今月のテーマは「熱中症」です。熱中症とは、気温が高い環境で起きる障害の総称です。
今年は6月から40℃を超えるなど、これまでにない早い時期に記録的な暑さ到来しました。
6月27日から7月3日までの1週間は、全国で1万4,353人が救急搬送され、前週(6月20日~6月26日)の3.5倍に急増しました。
前年同時期(1,300人)の11倍以上となりました。

重症度分類
日本救急医学会が2015年に作成した「熱中症診療ガイドライン」によると、熱中症は重症度によって次のように分類されます。
Ⅰ度:めまいやふらつき、立ち眩みなどを呈する「熱失神」、筋肉痛やこむら返りなどを呈する「熱痙攣」
Ⅱ度:口渇、頭痛、吐き気、倦怠感、集中力や判断力の低下などを呈する「熱疲労」
Ⅲ度:意識障害、けいれん、臓器障害などを呈する「熱射病」

熱中症のメカニズム
気温が上昇すると、血液が皮膚の方に集中し熱放散が促進されます。
さらに上昇すると発汗による熱放散が行われます。
気温が高くなるに連れて皮膚からの熱放散よりも発汗による方が優位になります。
通常はこのようなメカニズムによって体温調節が行われます。
しかし気温が高い環境では、大量の発汗によって通常の体温調節機能に支障をきたします。
体内の血液量が減少するため脳の血液量も減少し、熱失神の症状が発現します。
またナトリウムが欠乏し、熱痙攣の症状を引き起こします。
さらに脱水が進むと、循環血流量を保つために内臓の血液も動員され、その結果内臓の機能障害を引き起こします。
この病態が熱疲労です。
この脱水状態が続くと高体温になり、脳の障害が起こり、意識障害やけいれんを引き起こします。

熱中症リスクの高い人
高齢者や小児、基礎疾患のある人、特定の薬を服用中の人は、熱中症リスクが高くなります。
①高齢者:高齢者は、口渇を感じにくくなったり、発汗が低下するなどによって、暑さへの対応力が低下します。
②小児:小児は体重当たりの体表面積が大きく、熱が体内に侵入しやすいという特徴があります。
③基礎疾患のある人:心不全、心筋梗塞の既往歴がある人は、心拍出量の低下により、血流量が低下する恐れがあります。
糖尿病は多尿による脱水傾向が示されます。
④熱中症リスクを高める薬を服用中の人:抗コリン薬は発汗を司る交感神経の伝達を遮断するため、発汗量が低下し、体温調節機能が低下します。利尿剤、心抑制薬を服用している人は循環血流量の低下により体温調節機能が低下します。

水分・塩分補給
熱中症対策としては、一般的に水分と塩分の補給が必要だといわれます。
しかし実際に食塩水では速やかに体内に吸収されません。
ナトリウムは小腸においてブドウ糖と1:1の割合で吸収されます。
そのため水分と塩分に加えて糖分を適切な比率で摂取することが必要になります。
市販の経口補水液はこの目的に沿ったものだといえます。
スポーツドリンクにも一定の効果はありますが、経口補水液と比べて塩分が少なく、糖分が多くなっています。
また水だけの摂取は、ナトリウム濃度が低くなり、熱中症を悪化させる恐れがあるので危険です。

 

季節の漢方「暑邪」 8月

8月は暦の上では夏ですが、暑さはピークを迎える頃です。
陽が消失し、陰が成長しますので、通常なら処暑(8月23日頃)には暑さが衰えてきます。
しかし今年は司天(1年を6つに分けたときの3番目の気で、その年1年の気候変化を示すともいわれている)が少陽相火(しょうようしょうか)のため、特に年の前半は五行のうち火が支配します。
実際に6月後半には各地で40℃を超えました。
まだしばらくは厳しい暑さが続くことも予想されるので、例年以上に暑さ対策や体調管理が必要となります。
熱中症を防ぐために、冷房を積極的に使用することが推奨されていますが、室内外の温度差により自律神経が乱れやすくなるため、寒さを感じるほど温度を下げ過ぎないようにしましょう。
また冷たい飲食物をとり過ぎると胃腸の機能が低下するので注意しましょう。
東洋医学では、自然界の気候変化を風・寒・暑・湿・燥・熱(火)の6つに分けて、これらを六気(ろっき)と呼んでいます。
六気が強くなり過ぎると、健康に支障をきたすようになり、それは六気が六淫(ろくいん)という病邪に変化したからだと考えられています。
夏の暑さで体調を崩すのは、六淫のうち暑邪(しょじゃ)が原因と考えられています。
暑邪は、暑さによる過剰な熱(熱邪)や、多湿による過剰な湿気(湿邪)を伴うことが多いという特徴があります。
日本では梅雨の末期に気温が上昇し雨が多くなるため、非常に蒸し暑くなりますが、このような時期に湿熱邪が発生しやすくなります。
湿熱邪は様々な病気を引き起こしますが、熱中症もその一つです。熱中症は、東洋医学でいう温熱病の証(症状)の一つと考えられます。
温熱病は、外邪(熱中症の場合は湿熱邪等)が体内に侵入し、体の奥に移行するに従って衛分証→気分証→営分証→血分証と病状が進行します。
衛分証は、病邪が体表や肺にいる初期の段階です。
肺の症状は主に感染症による発熱や咳などが主なものとなります。熱中症では、温熱邪が体表に侵入した状態で、発汗などの症状を呈します。
この段階では、感染症のように咳などのはっきりとした症状が見られず、分かりにくいかもしれません。
治療は、発汗により体表の邪気を取り除くために、辛涼解表剤などを使用します。
気分証は、邪気が裏に侵入した段階で、正気と邪気が争っています。
営血分にはまだ進入していないものの、大量の汗によって津液が損傷されます。
陰虚となり口渇、頭痛、吐気などの症状を呈します。
治療には、清熱すると共に損傷した気を補う補益効果を併せ持つ清暑益気湯が代表的な方剤として使われています。
営分証は、邪気が陰の営分に侵入し、病状は気分証よりもさらに進行します。
営分証の病変部位は心となり、意識障害や譫語が現れるようになります。
清熱すると共に陰血を補う補血効果を併せ持つ温清飲などが使用されます。
その他、黄連解毒湯や白虎加人参湯などの清熱剤も使用されます。
血分証は、邪気が最も深い血分まで侵入します。
意識障害や譫語などの精神症状は営分証よりもさらに重くなり、さらには血液凝固障害のリスクも生じます。
治療には、涼血止血作用を持つ犀角地黄湯などありますが、犀角はワシントン条約により輸入が禁止されているため、入手が困難のようです。
「熱中症診療ガイドライン」による重症度の分類と、東洋医学の温熱病を比べてみた場合、症状(証)おける比較は、重症度Ⅰのめまいやふらつき、立ち眩み、筋肉痛、こむら返りなどと、重症度Ⅱの口渇、頭痛、吐き気、倦怠感、集中力や判断力の低下などは、衛分証から気分証、重症度Ⅲの意識障害、けいれん、臓器障害などは、営分証から血分証と、大まかですが見なすことができそうな気もします。
しかし温熱病が気分証までは正気が残っており病邪と戦える状態、つまり軽度な症状と見ているのに対して、ガイドラインではⅠ度は現場にて対処可能な病態とされているものの、Ⅱ度は速やかに医療機関への受診が必要な病態とされていることから、重症度の捉え方に違いがあるようです。

 

参考文献

総務省消防庁ホームページ『熱中症情報』
高金亮監修(2020)『改訂版 中医基本用語辞典』(東洋学術出版社)
菅沼栄(2022)『入門・実践 温病学』(源草社)