新型コロナウイルス

 

●ウイルスの種類

ヒトに感染するコロナウイルスの種類は、季節性の風邪の原因となるHCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の4種類に、2003年に32の地域や国に広がったSARS-CoVと、2015年に中東で流行したMERS-CoVの6種類がこれまで知られていました。
これにSARS-CoV2(新型コロナウイルス)が加わり、現在では7種類に分類されています。

●ウイルスの構造

【核酸の種類】
ウイルス粒子は、遺伝情報をもつ核酸とそれを包むカプシドというタンパク質の殻から成っています。
核酸の種類によってDNAウイルスとRNAウイルスに分けられますが、新型コロナウイルスはこのうちRNAウイルスです。
RNAを合成する酵素であるRNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼと比べてエラーを修復する能力が低いため、一般的にRNAウイルスは変異しやすいといわれています。
季節性のコロナウイルスやインフルエンザウイルスもRNAウイルスです。

【エンベロープ】
ウイルスによってカプシドの外側にエンベロープという膜を持つものがあります。
エンベロープは基本的には宿主細胞の脂質二重膜に由来しているので大部分は脂質から成っており、エタノールや石けんなどによって破壊されます。
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスはエンベロープを持っているので、石けんでの手洗いやアルコール消毒が感染予防において有効な対策となるのです。

【スパイクタンパク質】
新型コロナウイルスは、エンベロープの表面に数十個のスパイクタンパク質が並んでいます。
このスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)がヒトの細胞のACE2受容体に結合することによって、ウイルスが感染します。

●感染と増殖

新型コロナウイルスは、このRBDの変異によってACE2受容体との結合力を高め感染力が強くなったといわれています。
ウイルスのスパイクタンパク質がACE2受容体に結合すると、ウイルスの膜と宿主の細胞膜が融合します。
すると宿主細胞のTEMPRSS2という酵素が、スパイクタンパク質の特定の部位を切断します。
これによりスパイクタンパク質が開裂し、露出した疎水性アミノ酸が宿主細胞膜と融合し、ウイルスのRNAは宿主細胞内に侵入し増殖します。
ウイルスの侵入にはこれとは別にカプテシンLという酵素を利用した経路もあります。
増殖したウイルスは、宿主細胞のフリンというタンパク分解酵素が、スパイクタンパク質の特定部位におけるアミノ酸配列を認識して切断することで、別の細胞に感染します。
デルタ株では、このアミノ酸配列が変化したことによってウイルスの感染力が高まったとも考えられているようです。

●感染経路

当初は、飛沫感染と接触感染が主な感染経路とされていましたが、研究者らの発表を元に、WHOは2021年4月に、空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むことによる「エアロゾル感染(空気感染)」もあると見解を変えました。

●感染者数、重症者数、死亡者数、死亡率

11月30日現在、陽性者数の累積は24,793,166人、重症者数は342人、死亡者数の累積は49,644人です。
死亡率は、東京都が公表したデータによると、第3波1.54%、第5波0.41%、第6波0.14%、第7は0.09%でした。
第7波では、第3波と比べると約17分の1まで減少しています。

 

季節の漢方「感冒と風寒邪」

本格的な冬を迎えるこの時期は、天地の陽の気は衰え始め、陰の気が盛んになっていきます。
陰の気がさらに強くなると、風寒邪や涼燥邪といった邪気に変化します。
外邪が身体に侵入しようとしたとき、まず肺がその攻撃に対処します。肺は通常、宣発機能によって津液や気を全身に循環させています。
体表を巡る気は衛気とよばれ、外邪の侵入を防ぐバリア機能を担っているので、体表では正邪が争います。
しかし邪気の働きが強く侵入を許してしまうと、肺が侵されて宣発機能が低下します。
これを肺気不宣といいます。
冬は風寒邪による肺気不宣が多くみられるようになります。
症状として、発熱、悪風、頭痛、体の痛み、鼻詰り、鼻水、のどの痛み、咳、痰などを呈します。
後漢の時代に張仲景(ちょうちゅうけい)が著した「傷寒論(しょうかんろん)」には、主に風寒邪に侵されたときの治療について書かれています。
この時代、社会の中心だった北部では、戦乱と厳しい寒さによって多くの人が死んでいました。
200人いた張仲景の親族も3分の2が疫病によって死亡したそうです。
そのことがきっかけとなり、張仲景は医業の道に進んだといわれています。
傷寒論は、発病から死に至るまでの病を太陽病、陽明病、少陽病、太陰病、少陰病、厥陰病の6つに分類しています。
太陽病では、体表部である頭・項背・筋肉・関節・鼻・咽喉に症状が現れます。
体表の症状は次のようなメカニズムで発症します。
風寒の邪気と正気が体表で争うと発熱します。
風邪が偏盛になると悪風が起こります。
風邪の開泄作用により汗孔が開くと発汗します。
邪気が気・血・津液の流れを阻滞すると頭痛や身体痛が起こります。
皮毛肌腠は肺胃に通じ、肺は鼻に開竅しているので、邪気が肺を侵して肺胃の調和が失調すると、肺気が阻滞されて鼻鳴を呈し、胃気が上逆して乾嘔を呈します。
邪気が肌表を傷つけて腠理が不固となり衛気が外泄すると、営陰は体外に漏れるため「営衛不和(衛強営弱)」となります。
治療には、表の邪を取り除く、解表剤が使用されます。
主な方剤として、桂枝湯や葛根湯、麻黄湯、小青竜湯などがあります。
中でも桂枝湯は解表剤の中心的な方剤です。
桂枝、芍薬、生姜、甘草、大棗の5つの生薬から構成されています。
桂枝は体表の邪気を取り除き、芍薬が営陰を補うことにより、営衛不和を治します。
生姜は桂枝の解表効果を助け、胃を温めることによって吐気を抑えます。
大棗は益気補中して滋脾生津作用を示します。
甘草は桂枝と組んで衛陽を助け、芍薬と組んで営陰を補い、さらに諸薬を調和させます。
漢方の風邪薬として有名な葛根湯は、桂枝湯に麻黄と葛根を加えたものです。
桂枝湯が虚証に使用するのに対して葛根湯は実証に使用します。
実証と虚証の見分け方の一つに発汗の有無があります。
桂枝湯証では、風邪が腠理を開き発汗しますが、葛根湯証では、寒邪の働きが強くなり、腠理が閉じて衛気が体表の届かなくなるので無汗となります。
この場合、麻黄が腠理を開き発汗解表し、このとき桂枝が麻黄の働きを増強します。
葛根は項背部のこわばりを緩和します。
少陽病では、往来寒熱(悪寒と発熱を繰り返す)や胸脇苦満、口苦などの症状が現れます。
胸脇部や心下部(みぞおち)などに痛みや張りが現れるのが特徴です。
治療には、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯などが使われます。
陽明病では、胃腸系を中心とした身体の裏部に熱の症状が現れます。
治療には、大承気湯や調胃承気湯、白虎加人参湯などが使われます。
太陰病では、胃腸が冷えて下痢や軟便となるのが特徴です。
治療には、人参湯、桂枝加芍薬湯などの温補剤が使われます。
少陰病では、腎、膀胱中心の冷え、疲れ、横になって寝ていたい状態になります。
体力がないものが風邪を引いた場合、太陽病でなくいきなり少陰病となることがあり「直中の少陰」と呼ばれます。
治療には、真武湯、麻黄細辛附子湯などが使われます。
厥陰病は最も寒が強い状態で、治療には、当帰四逆加呉茱萸生姜湯などが使われます。

 

参考文献

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10 (2022.12)『新型コロナウイルスが細胞に侵入する仕組み』
井上正康・松田学(2021)『新型コロナが本当にこわくなくなる本』
辰巳洋(2014)『実用中医学』(源草社)
滝沢健司(2018)『図解・表解 方剤学』(東洋学術出版社)
橋本浩一(2009)『内経気象学』(緑書房)