インフルエンザ

新型コロナウイルスが流行して以来、インフルエンザウイルス感染は激減しましたが、今シーズンは新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時流行を懸念する専門家もいるようです。

 

●ウイルスの種類

インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型に大きく分類されます。
A型はヒト以外にも豚、馬などの哺乳類や鳥類に感染して変化しやすいことが特徴です。
B型とC型は人へのみ、D型は家畜のみ感染します。
このうち、大きな流行の原因となるのはA型とB型です。
A型インフルエンザウイルスは144種類の亜型に分けられており、過去の流行した亜型には次のようなものがあります。
1918年に流行したH1N1型(スペイン型)、1957年に流行したH2N2型(アジア型)、1968年に流行したH3N2型(香港型)、1977年に小流行したH1N1型(ソ連型)。
このうち現在流行しているのは、H3N2(香港型)と、H1N1(ソ連型)の2種類です。
2009年に流行した新型インフルエンザウイルスはH1N1型です。
その他2001年から2002年にかけて、H3N2型とH1N1型のそれぞれのウイルス遺伝子が組み合わさった結果生じたといわれるH1N2型の流行が見られました。
また近年では、2004年東南アジアを中心に発生した高病原性のH5N1型のパンデミックが懸念されています。
鳥インフルエンザは、H7N9型で、中国を中心とした地域で人への感染が確認されており、致死率は30%以上とかなり強い病原性を持ちます。
一方、B型インフルエンザウイルスは山形型とビクトリア型の2種類があり、さらに細かい型に分かれます。
これらA/H3N2型(香港型)、A/H1N1(ソ連型)、B型が同時期に流行すると同じシーズン中に、A型に2回かかったり、A型とB型にかかったりすることがあります。
インフルエンザウイルスはそれぞれの型で変異をしますが、A型は変異が激しいのに対してB型は少ないといわれています。
人はインフルエンザウイルスの変異に追いつけず何回もインフルエンザにかかることがあります。

 

●コロナ流行期にインフルエンザはなぜ流行しなかったのか?

新型コロナウイルスが猛威を振るって以来、インフルエンザが流行しなかった理由として、よく言われているのが、マスク・手洗い・うがい等、一人一人の感染対策が徹底されたということです。
テレビの情報番組で司会者やコメンテーター、専門家などがよくこのような発言をしています。
しかしそれなら、新型コロナウイルスの流行が収束しても、引き続き今のような感染対策をとっていればインフルエンザは流行しないことになります。
実際は次の2つの理由によると思われます。
一つ目はウイルス干渉です。
ウイルス干渉とは、強い毒性を持つウイルスが感染すると、それよりも弱いウイルスは感染できなくなるという説です。
新型コロナウイルスという強いウイルスの流行により、インフルエンザウイルスの流行が抑えられたというものです。
二つ目は、新型コロナウイルスが流行してから、インフルエンザウイルスの検査が行われなくなったことです。
2020年3月11日、日本医師会は新型コロナウイルスの医師への感染を防ぐため、インフルエンザの検査を行わないように、全国の医師会に対して通知を出しました。
インフルエンザの検査が行われなかったので、感染者がいたとしても、数字に上がらなかったのです。
発熱等の症状があり、新型コロナウイルスの検査で陰性だったとしても、それが偽陰性だったのか、あるいは季節性インフルエンザか別のウイルスによるものなのか分かりません。
今後は、新型コロナとインフルエンザの両方の検査が可能となったので、両ウイルスの流行状況が分かるようになるでしょう。

 

季節の漢方「感冒と風寒邪②」

インフルエンザや感冒などの傷寒病の多くは、風寒邪が原因とされています。
気温が低いと傷寒病は流行しますが、気温が低いだけの場合は、傷寒病はあまり発症せず、冷えを中心とした腰や手足の痛みなどが生じやすいと考えられています。
風寒邪が体内に侵入するタイミングは、気温が低いときよりも、寒暖差の激しいときだといわれています。
気温が高いときに、陽邪の性質をもつ風邪(ふうじゃ)が腠理を開き、その後気温が急激に低下したときに、盛んになった寒邪が開いたままの腠理から風邪を伴って侵入します。
このようにして傷寒病を発症します。風邪は、六気の一つである風が病邪と化したものですが、風には実風と虚風という考え方があります。
季節に合った方角から吹く風を実風といい、逆の方向から吹く風を虚風といいます。
実風は万物を成長させ養い、臓腑の働きを助けます。
正常に吹いていれば、このように体によい働きをしますが、強くなり過ぎた場合は、病邪と化すこともあります。
西高東低の気圧配置のときに北西から吹く風は寒邪であり、実風であっても邪気の性質が強くなるため、このときの寒邪は傷寒病の病因となります。
これに対して虚風はもともとの性質が邪であるため、病邪となって、臓腑を傷つけて病気を引き起こします。
風寒邪は、体表から侵入し、その後体の奥の方に侵入していきます。
中国の古典「傷寒論」では、発病から死に至るまでの病を太陽病、陽明病、少陽病、太陰病、少陰病、厥陰病の6つに分類しています。
奥の方に侵入するほど病状が重くなるので、初期の太陽病の段階で、いかに病邪を取り除くことができるかが重要なポイントになります。太陽病では、体表部である頭・項背・筋肉・関節・鼻・咽喉に症状が現れます。
体表の症状を取り除く方剤は解表剤と呼ばれています。
市販の漢方薬にもいくつかありますが、ここではよく知られている「麻黄湯」と「小青竜湯」という2つの方剤について見ていきます。
まず麻黄湯について、漢方薬メーカーツムラの添付文書には次のように効能効果が記載されています。
「体力充実して、かぜのひきはじめで、さむけがして発熱、頭痛があり、せきが出て身体のふしぶしが痛く汗が出ていないものの次の諸症:感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり」麻黄湯は、麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)の4つの生薬から構成されています。
麻黄は腠理を開いて、風寒の邪気を散じ(発汗解表)、肺の宣発機能を回復させます(宣肺平喘)。
桂枝は麻黄の発汗解表の効能を強化するとともに、経脈を温通して風寒による身体の疼痛を治療します。
杏仁は、肺気を下降させて(粛降作用)、麻黄の宣発作用とあいまって肺の宣発粛降の機能を回復させます。
甘草はこれらの生薬の働きを調和させます。
麻黄湯は麻黄を中心とした方剤で、麻黄の発汗解表・宣発作用を他の生薬が強化させた形となっています。
麻黄湯は実証の治療薬なので、虚証には用いません。
虚証には桂枝湯などが用いられます。

次に小青竜湯です。
小青竜湯は鼻水や花粉症の薬としてよく知られています。
効能効果は次の通りです。
「体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴うせきや鼻水が出るものの次の諸症:気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、感冒、花粉症」
小青竜湯は、麻黄、桂枝、甘草、芍薬(しゃくやく)、細辛(さいしん)、乾姜(かんきょう)、半夏(はんげ)、五味子(ごみし)の8つの生薬から構成されています。
麻黄と桂枝による発汗解表と宣肺平喘は麻黄湯と同じで、これによって悪寒や疼痛、咳を抑えます。
鼻水やたんなどの症状は、風寒邪が肺に侵入し、肺気が滞り津液(水液)が停滞することによって引き起こされます。
乾姜と細辛は肺を温めることによって水飲(水液の偏在)を取り除きます。
半夏は水飲を取り除くと共に、肺気の上逆を抑えます。
五味子は収斂作用により、体内から漏れ出ようとする咳やたんなどを抑えます。
甘草は諸薬の働きを調和させます。

 

参考文献

厚生労働省ホームページ『インフルエンザ(総合ページ)』
ツムラホームページ
滝沢健司(2018)『図解・表解 方剤学』(東洋学術出版社)
橋本浩一(2009)『内経気象学』(緑書房)