五行の「水」は、滋潤性と下降性の特徴があります。
五臓の「腎」は、全身の水分を下部の腎に集め、尿として排泄するので腎に属します。
腎の働きは、納気、主水、蔵精を主ることです。
納気とは、肺で吸入した気を肺の粛降作用と共同して下部に降ろす作用です。
主水とは、水分の再吸収と排泄の機能です。
納気により腎に回収された津液は、清と濁(必要なものと不要なもの)に分けられます。
清のものは腎の陽気によって再び胸中に運ばれ、濁のものは膀胱に送られ尿となり排出されます。
蔵精とは、両親から受け継いだ先天の精と、飲食物から取り入れた後天の精が合わさった腎精を蔵する機能です。
腎が失調すると、発育や生殖機能、膀胱、耳、足腰に症状が出やすくなります。

納気

肺の粛降により取り込まれた空気(清気)は、腎の納気により納められ、深い呼吸になります。
腹式呼吸のようなものです。
そのため肺の機能が正常だとしても、腎の機能が衰えると浅い呼吸になります。
腹式呼吸では血液に酸素を十分に送ることができるので、血行不良による冷えや痛みなどの改善が期待できます。
また酸素の利用効率が高まるので代謝が亢進し疲れにくくなります。
さらに腹式呼吸は自律神経の働きを安定化させるため、疲労、不眠、不安など、不定愁訴といわれる症状の改善も期待できます。

主水

主水作用は、津液の貯蔵、拡散、排泄といった水分代謝を調節する機能です。
水穀の精微に含まれている津液は、脾の昇清作用により肺に送られ、肺の宣発作用により全身に拡散されます。各組織で利用された津液は、肺の粛降作用により膀胱に入ります。
膀胱に入った津液は、腎の陽気の気化作用によって清濁に分けられ、清の部分は上昇して肺に入り再び全身に拡散され、濁の部分は膀胱に運ばれて体外に排出されます。
西洋医学から見ると、主水の清濁に分別する働きは、腎臓の糸球体の機能と見ることができます。
全身を流れる血液の20~25%は腎動脈に流れています。
さらに腎動脈から輸入細動脈を経由して糸球体に入ります。
糸球体で濾過されると、尿の元となる原尿ができます。
原尿は1日に150~180ℓ生成されますが約99%は尿細管で再吸収されて再び血中に入ります。
濃縮された残りの約1%が尿として排出されます。

蔵精

精は、人の成長や発育、妊娠、出産などを主ります。
生命を維持するためのエネルギーのもととなる物質です。精は腎に蓄えられているため腎精と呼ばれます。
腎精には、両親から受け継いだ先天の精と、食物の水穀の精微から作られた後天の精があります。
西洋医学から見ると、腎精は糖質、脂質、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどの栄養素、ホルモンや神経伝達物質などと見なすことができます。
先天の精は遺伝的に受け継いだもので、後天の精は食事など日常の活動を通じて生じたものです。
腎精は、加齢とともに減少します。
不足すると「腎虚」になり、頻尿、腰痛、下肢の痛み、耳鳴り、疲労感、抜け毛、しわ、たるみ、更年期症状、不妊や閉経などの症状が現れます。