五臓の機能と病気

東洋医学には蔵象学説という理論があります。
「蔵」とは五臓、すなわち肝・心・脾・肺・腎の五つの生理機能を中心とした観念をいい、「象」とは体表に現れる生理現象や病的な変化をいいます。
(西洋医学でいう肝臓や心臓などの臓器とは意味合いが異なります。)
五臓には天の気が巡っているので、人は健康を保つことができます。
季節の運行や日々の天候の変化に調和し、飲食の節度を守り、起床や睡眠を規則正しくし、妄りに心身を過労させないことで、気は正常に体内の五臓を巡ります。
ですから季節や天候に応じた生活をしなかったり日常生活が乱れたりすると、気が巡らなくなり五臓のどこかに症状が現れます。

「五臓を巡る気」とは、気・血・津液であるといえます。
陰陽説において、狭義の気は陽の気、血・津液は陰の気であると考えられています。
五臓のどこかに気・血・津液が不足したり滞ると、その「臓」が司る生理系統に症状が現れます。

 

肝の機能

肝は全身の気や血の流れを調整し、血を貯蔵します。
特に自律神経を中心とした神経系や血液の流れと関連しています。

   

肝の気がスムーズに流れなくなり、鬱滞(うったい)すると、イライラしたり、抑うつ状態になったりします。
また肝が失調すると、血が不足するため筋力の低下や、痙攣、視力の低下などをまねきます。
自律神経のバランスを整えるために、規則正しい生活を心がけましょう。

肝の病気には次のようなものがあります

【肝血虚】
全身の血が不足した状態です。主な症状として、眼精疲労、視力低下、めまい、立ちくらみ、爪の変形、肌荒れ、抜け毛、筋肉痛、筋肉のけいれん、生理不順などがあります。
【肝陰虚】
肝の血と津液が不足し、熱性が増した状態です。主な症状として、手足のほてり、寝汗、口渇、ドライアイなどがあります。
【肝気鬱血】
肝の機能が失調し、気や血の流れが滞った状態です。主な症状として、イライラ感、気分の落込、過度な緊張、喉のつまり感、胸苦しさ、腹部膨満感、生理不順、生理痛などがあります。

 

心(しん)の機能

心は血を全身に届けたり、精神や意識を正常な状態に保ちます。
心が失調すると、動悸、息切れ、胸痛などの症状が出やすくなります。
さらには不眠や不安、健忘などの精神症状も出やすくなります。
精神症状は、心が外部からの刺激を受け、精神の働きとして反応させることにより起ります。
物事に対する執着やこだわりをなくすように心がけるとよいでしょう。
外部からの刺激を少なくすることで、精神を安定に保つことができます。

    

 

心(しん)の病気には次のようなものがあります

【心気虚】
心の気が不足した状態です。主な症状として、動悸、息切れ、不整脈、胸苦しさ、発汗過多などがあります。
【心陽虚】
心気虚が進行し、体を温める作用が低下した状態です。主な症状として、心気虚の症状に加えて、手足の冷え、頻尿などがあります。
【心血虚】
心の血が不足した状態です。主な症状として、入眠障害、浅眠、多夢、不安感などがあります。
【心陰虚】
心の血と津液が不足し、熱性が増した状態です。主な症状として、心血虚の症状に加えて、のぼせ感、手のひらや足の裏の熱感、口渇、口内炎などがあります。

 

脾の機能

脾は飲食物から栄養素を吸収し、肺から取り入れた大気中の清気(気の原料の一つ)と合わせて気と津液を作ります。
また脾は血をつくり、血が脈の外に漏れ出るのを防ぎます。
脾が失調すると、胃痛、食欲不振、腹部膨満感、下痢など消化器系の症状が起こりやすくなります。
主食に偏った食事をしている人やお菓子やデザートを好む人は糖質を取り過ぎる傾向にあり、
このような食習慣は脾の機能を低下させるので注意しましょう。

    

脾の病気には次のようなものがあります

【脾気虚】
脾の気が不足した状態です。主な症状として、食欲不振、腹部膨満、下痢、便秘、疲労感、手足の重だるさ、体重減少などがあります。
【脾陽虚】
脾気虚が進行し、体を温める作用が低下した状態です。主な症状として、脾気虚の症状に加えて、腹部の冷え、腹痛、下痢、むくみ、頻尿などがあります。
【脾陰虚】
脾の血や津液が不足し、熱性が増した状態です。主な症状として、口渇、唇の乾燥、手足のほてり、微熱、食欲不振、腹部膨満などがあります。

肺の機能

肺は大気から清気を取り入れ脾に送ります。脾が作った津液と気を全身に届け発汗を調節し、汚れた気は排出します。
また津液と気を身体下部に輸送し、不要な水液を膀胱へ下ろします。全身の血脈は肺に戻ります。
肺は鼻やのどなどの他、皮膚も含めた体全体のバリア機能を持ちます。
肺が失調すると、鼻炎や花粉症などアレルギー疾患、乾燥肌、アトピー性皮膚炎、喘息などが発症しやすくなります。
呼吸の仕方を見直して、鼻呼吸、腹式呼吸を心がけましょう。
また免疫機能を正常に保つためにも、腸内環境の改善に努めましょう。

肺の病気には次のようなものがあります

【肺気虚】
肺の気が不足した状態です。主な症状として、咳、水様痰、息切れ、疲労感、発汗、風邪を引きやすいなどが】
肺気虚が進行し、体を温める作用が低下した状態です。主な症状として、肺気虚の症状に加えて、手足の冷え、むくみ、頻尿などがあります。
【肺陰虚】
肺の血や津液が不足し、熱性が増した状態です。主な症状として、空咳、粘痰、しわがれ声、喉や口の乾燥、手足のほてり、寝汗などがあります。

 

腎の機能

腎は生殖機能や発育の源となる精気を貯蔵し、水分の貯蔵や排泄を調整します。
両親から受け継いだ生命の元である先天の精と飲食物から補充した後天の精を蔵します。
腎が失調すると、成長や成熟、生殖の異常を来たします。
また老廃物の代謝が悪くなったり、冷えやすくなったり、内臓や身体の機能が弱まるなど、老化につながります。
適度な運動、柔軟、スキンケアなどを心がけましょう。

  

腎の病気には次のようなものがあります

【腎気虚】
腎の気が不足した状態です。主な症状として、疲労感、腰痛、腰重、頻尿、記憶力低下、視覚・聴覚低下、精力・性欲低下、白髪、抜毛、早期閉経、不妊などがあります。
【腎陽虚】
腎気虚が進行し、体を温める作用が低下した状態です。腎気虚の症状に加えて、足腰の冷え、頻尿、軟便などがあります。
【腎陰虚】
腎の血や津液が不足し、熱性が増した状態です。主な症状として、手足のほてり、口渇、寝汗などがあります。